許されたくはないのかもしれない
あの映像を初めて見たとき、私はロンドンにいた。
当時春休み中の大学生だった私は、友達と旅行に来ていた。安ホテルの食堂で硬めのパンとジャムだけの簡単な朝ごはんを食べていると、視界の隅であの映像がテレビで流れだした。
映画の映像だと思い真剣には見なかった。おそらくJAPANとかTOHOKUの文字が画面にはあったはずだが、それにも気づかないくらい見ていなかった。あまりにもリアリティがなさすぎて、ニュース番組だと思わなかった。私たちはそのまま朝食を済ませ、ホテルを出た。
何かが起こったらしいと気づき始めたのは、1日中観光してそろそろホテルに戻ろうかという頃だった。駅ですれ違った現地の人から「日本人?本当にお気の毒に。」と言われたのだ。私たちは新聞を手に入れ、そこでようやく、状況を知った。
今であれば、スマホで情報を集めたり連絡が取れたりするだろうが、当時はそういった手段を全く持っていなかった。ホテルに戻り、ロビーに1台だけ置かれた古いパソコンで検索して、私たちの地元には被害はなさそうだということが分かった。それも「多分大丈夫なんだろう」という程度で直接家族や友人に連絡がとれたわけではなかった。メールを送信しておき、次の日にまたメールをチェックしてやっと家族の無事を確認できた。
私は何も失わなかった。家族も友人も、住む場所も学校も。旅行から帰ればそれまでと変わらない日常を過ごすことができた。そしてそのことに、どこかで罪悪感のようなものを感じている。
何も失っていないことに。
何も行動しなかったことに。
それなのに、あの映像を「見るのが辛い」と感じてしまうことに。
あれから10年。消化できない感情が今も心の中で燻り続けている。